第2章 照葉樹林文化
堀田満(京都大学)より
アジアの根栽農耕のイモ類は、大別するとタロイモとヤムイモの2種類に分けられ、
それぞれに熱帯系と暖温帯系の2種類がある。
タロイモ
サトイモ科の地下茎を食用にするものの総称
サトイモ(colocasia esculenta)
キルトスペルマ(cyrtosperma spp.)
クワズイモの仲間のインドクワズイモ(alocasia indica)
二倍体の種類(染色体基本数の14本の2倍28本)
寒さに弱く、生育期間が長く、主としてオヤイモを食用にする
インド東部からインドシナ半島の熱帯モンスーン林地域
三倍体の種類(染色体42本)
低温に比較的強い(雑種強勢)、生育が早く、主としてコイモを利用
ヤムイモ
ヤマノイモ属(dioscoreae)に属するイモ類の総称
ヤマノイモ(d.japonica)、ナガイモ(d.batatas)
比較的低温に強い
東アジアの暖温帯つまり照葉樹林帯
ダイジョ(d.alata)、ハリイモ(d.esculenta)
カシュウイモ(d.bulbifera)
比較的高温
熱帯から亜熱帯の地域
イモ類の地下の部分が肥大して大きなイモになるのは、年中高温で湿潤な熱帯降雨林地域ではなく、
明瞭な乾燥季又は低温季のある所に限られる。これはその期間に植物が休眠してイモに養分を貯えるからである。
熱帯系のイモは乾季休眠型、暖温帯系のイモは低温休眠型で、それぞれ別の発展過程をたどったらしい。
「稲作以前」照葉樹林文化「農業起源論」中尾佐助
照葉樹林文化は、熱帯降雨林の根栽農耕文化のタローイモ(taro)類の中から、サトイモ(colocasia antiquorum)を受け取った。
またヤムイモ(dioscorea)の中からは温帯原産のナガイモ(dioscorea batatas)を雲南省あたりで栽培化し、日本にまで伝播させた。
しかしそれら以外の野生のイモ類の栽培化にはあまり成功していない。
それは温帯の照葉樹林帯は自然の恵みが少ないためで、それよりもむしろ、西方に起源したサバンナ農耕文化をよく吸収して、
雑穀類アワ、キビ、シコクビエ、モロコシなどを受け取り、
照葉樹林帯原産のヒエ、ソバなどの雑穀類と陸稲(オカボ)や豆類(大豆、小豆など)を栽培し、新しいタイプの農耕文化を形成した。
もともとこの文化は、ワラビ(pteridium aquilinum)、クズ(puerraria thumbergiana)、テンナンショウなどの野生のイモ類や、
シイ、カシ、トチの実のような野生の堅果類の採集を盛んに行い、「水さらし」でアクヌキする技法を持つ採集文化であり、
またイノシシやシカなどの狩猟も行っていた。そうしてこの文化は採集段階から農耕段階へ進化していった。